05.03.04:40
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09.12.19:05
無題
とても短いMの話。
睡眠はMと呼ばれる男には、特別必要ではない。
だから、夜中、東洋の国では丑三つ時と呼ばれる頃に
キャビンに現れたところで、眠れないからだとか、そういう理由があったわけでもなく
ただ、少し思考の中で確認したいことが出てきたからだった。
既に定位置となったソファーに腰掛け、英字新聞を手に取る。
それを広げて読みふけろうとする、その途中でテーブルの上に置かれた皿に目が留まった。
白いナプキンがかけられた皿は、こんもりと盛り上がっていて、
ナプキンをめくってみると、山のように積まれたビスケットが中にはあった。
「……………」
どうも、セラニアンで拾った仔猫は暇を持て余しすぎているらしい。
しょっちゅうセバスを誘ってキッチンに篭もっているメアリの姿を思い出して
また作ったのかと、半ば呆れに近い感情を抱く。
持ってきていた大デュマの本は、あの都市に置いてきて、他の荷物も同じく。
身一つの少女が他にやることがあるのかと、誰か他の人間が居たら
Mに進言したかもしれなかった。
だが、ここに居るのはM一人で、その辺りを慮ることも無く
ナプキンを元に戻そうとして、彼は珍しく気まぐれを起こした。
皿の上に盛られたクッキーを一つ手に取り、口に運ぶ。
小麦粉、砂糖、卵、バターの混合物のそれは、素人の手作りらしい味がする。
咀嚼して嚥下し、手についた粉を見て常通りの無表情でそれを暫く見下ろした後
Mは何事も無かったような顔をして、ナプキンを元に戻し、英字新聞を広げた。
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