05.17.16:10
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12.02.22:27
短文
ヒルドの短文
昂った肉を受け入れるとき、再生してしまう身体はいつだって初めてであるが、
ヒルドは、初めて、本当に初めて膜を破ったときの気持ちを良く覚えている。
馬鹿みたいな高揚感。
馬鹿みたいな喜び。
馬鹿みたいに興奮しながら、ヒルドは
あぁ、見て御覧なさい。と叫びたかった。
遠き地の、聖女と謳ったもの達よ。
お前たちの先頭に立って、戦ったものの末路はこんなものなのだと。
遠き地の、魔女と謳ったもの達よ。
お前たちが罵ったように、今まさに女は魔女となったのだと。
高笑いを響かせながら、奪った命が浮かべた
その、絶望しながらも愕然とした表情を、ヒルドは良く覚えている。
しかし。
さて、果たして高揚感は本当であったか。
喜びは本当であったか。興奮は、高笑いは。
えぇ、えぇ。そうでしょうそうでしょう。
ヒルドとて、本当は分かっている。
心の奥底にあったのは、真に感じていたのは恐怖以外の何者でもない。
神は全て見ておられる。
人の行いその全て。
世界が違った所で、そんなものは小石ほどの障害ですらない。
十全である彼は、ならば今のこの行いも見ているはずだ。
神の声も聞かず、ただ、黒いものに突き動かされ
命を奪う魔女の所業を。
火あぶりにされるなら、今こそが相応しいのに。
「ふ、ふふふふふ」
命が潰えたのを視認したときに、思わず零れた笑いは
自分に向けた嘲笑だった。
それが、堕ちた姿に対する嘲笑なのか
それともまだ神に縋っていることへの嘲笑なのか。
それすらも分からぬまま、未だに哂い続けているヒルド・ロメ・ダルクは
未だに神の名を心の奥底、本人すらも知らない場所で、今も叫び続けている。
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